Vicious (Sinners of Saint, #1)
なんてこと!また好みの作品に出会ってしまいました…!
(注:私の好みは一般的ではありません…)
最初の1行から心を掴まれ、ラストまでペースダウンすることなく読み切りました。

まず、英語の難易度については、私の洋書ロマンス読書史上最強に難しかったです。(クリスティン・アシュリー作品よりも読みづらかったです。)
文学的に難解というのではなく、スラングと流行語みたいな、辞書では太刀打ちできないフレーズが多く、文法も崩れていて、しかも一文が長かったりして。最初は調べながら読んでいたけれど、途中で辞書を手放して、雰囲気で意味をつかみながら読み進めました。それでも十分理解できて楽しめました。
文体フェチな自分にとって、文体が合わない作品を読み進めることは非常に困難なのですが、この作品に限っては、文体がどんなに合わなくても読みたいと思わせる魅力がありました。

正直なところ、小説としての完成度はそれほど高くないと思います。
最近ハマっているPepper WintersやTiffany Reiszの作品のような完成度(芸術性)には及んでおらず、深みもそれほどなく、感動するわけでもないです。それでも(海外レビューでも人気がうかがえるように)多数の読者を強力に引き込むこの作品の魅力はひとえに、ヒーローの人格にあると思います。女心のツボを突いてくるんです。なんだか、すごく萌えました。こんなヒーローは初めて!!!という驚きと新鮮さが、ラストまで勢いよく引っ張っていってくれました。こんなヒーローが描ける作者さま、すごい!(読み慣れてきたら、文体にも惹かれるようになりました。キレのある文章とセリフが楽しくて何度も読み返したくなります!癖のある文章は読み手にとっても癖になる(笑))

いったいどんなヒーローなの??
それは言葉で説明するのが難しいけれど、作者さまが自己紹介として「Bringing badass alphas to their knees since 2015」と仰ってるとおり、『Badass Alpha』(辞書的な意味:ちょっと危険な匂いがするクールでタフで傲慢でかっこいいアルファメイル)なんです。そして『Asshole』(辞書的な意味:嫌な奴。ろくでなし。バカ野郎等、傲慢な男に対して使う言葉)なんです。いい意味でも悪い意味でも、私がいままで読んだロマンス小説の中では多分ベストワンに輝く『Badass Alpha』だと思います。けれど、そんな彼が、後半では延々とヒロインに許しを請うところに、カタルシスがあるんです。いわゆる『土下座ヒーローもの』なんです(土下座はしませんでしたが)。
だから、プロットは最近流行(?)のトーチャード・ヒーローが、ヒロインに出会い愛を知って幸せになりました〜ハピリーエヴァーアフター♪という、よくあるロマンス小説の域を出ませんが、それがかえってよかったです。安心して楽しめました。
詳しいあらすじを、自分のための備忘のために、下部に詳しく書いておきますが、英語力が乏しい者によるメモなので信憑性がなく、しかもネタバレになりますので、この作品を読む予定の方は読まれないほうがいいと思います…。

読書期間:2019/08/28~2019/09/02
所要時間:13.5時間
ページ数:339

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【ネタバレを含むあらすじ】
Baron Spencer (ニックネームはVicious)は、カリフォルニアの富裕層一家のひとり息子。
Emillia LeBlancは、バージニアから来てViciousの家で住み込みの家政婦・庭師等として働く父母の娘で、妹は病気がち。
ストーリーは、ふたりが18歳のところから始まります。

カリフォルニア随一の富裕層が通う学校の中で、貧困層出身のEmilliaはいつもゴミのように避けられて粗末に扱われていた反面、Viciousは学内で一番イケてて派手なメンズのうちのひとりでした(4人組)。
そんなViciousはEmilliaをあからさまに嫌う態度を取り続けていました。
例えば、Emilliaが奨学金受給資格を得るための試験前日に数学の教科書を盗まれ、Viciousが盗んだかもしれないと思い(実際そうだった)、部屋に訪れたところに、Viciousはベッドの上で派手な女Geogiaとキスをしてイチャついて見せつけてきたりして、Emilliaの心だけじゃなくキャリアをも傷つけました。
EmilliaがDean(Viciousの友人)と付き合うことになったと知ったときは、Emilliaの妹(15歳。病気がち)にキスをした上で、Eimilliaにもキスを迫ったり、Deanと別れるように脅迫したり、家から出ていけと脅したりしました。おまえのことが嫌いだと言いながらも、互いに惹かれ合うものがあることに、互いが気づいていました。気づいていながら、それでもEmillliaに酷い態度をとりつづけるViciousは、EmilliaがViciousの仲間のひとりと付き合い肉体関係を持ったことを知ったときには、ついに、Emilliaを家から追い出してしまいました。
 
10年後、27歳になったEmilliaは、ニューヨークで妹の学費と薬代を稼ぐために働きづめの日々を送っていました。そこにVicious(投資会社の支社長となっていた)が現れ、過去の償いのために、自分の個人秘書として高額な報酬で雇うことを提案します。Viciousは相変わらず、傲慢で横柄で嫌な奴なのだけど、「おれはAssholeだった」と言って反省と好意を示し始めます。
Viciousに関わるとまた傷つくことになるとわかっていながら、Emilliaの心は彼に惹かれることを止められず、彼に対する不信感と欲望の間で心が揺れます。好きだけど、危険。だけど、惹かれる。しかも、彼が誘ってくる。

Viciousは遊び人だけど、本気で人と関わったことがないのでした。
「おれはデートはしない主義だ(デートというものをしたことがない)」と言うViciousをEmilliaがデートに連れて行くシーンのViciousは初々しくてキュンキュンしましたし、真冬の雨と雹に打たれながらEmilliaに謝罪をしつづけるViciousは濡れた捨て犬みたいに可愛くみえて萌えました。
後半は土下座ヒーローの見せ場です。一般的なロマンス小説では土下座ヒーローの土下座的ふるまい(または台詞)はほんの数行ですが、この作品の土下座的行動は長く続くので、読者としても大満足(笑)
 “I was an asshole."って何度も言うヒーローがかわいい。素直なんですよね。
(ラストでは、おれの額に「Asshole」っていうタトゥーをいれようと言ってEmilliaを笑わせたりします。かわいい。)
 
10年前と現在のストーリーが交互に並行して進んでいき、徐々に、ふたりの関係やViciousの過去の真相が明らかになっていきます。それによってふたりの愛の深さが浮き彫りになり、ロマンチックに色づいていくストーリーから目が離せませんでした。
じつはViciousは最初からEmilliaのことしか見えていなかったのです。けれど、幼少期から激しいDVを受けており心身ともに傷ついていたせいで、Emilliaに対して酷いことばかりしていたことが明らかになっていきます。(しかもDVの加害者とEmilliaの外見が似ていたとか。)
好きだからこそ、好きな相手には傷つきやすく脆くなり、傷ついたら、仕返しをしたくなる、という幼い男子が好きな子をいじめる心理と同じだからかわいい。
ロマンス小説でよくあるトーチャード・ヒーロー像とは違い、捻くれていて、冷酷で残忍な部分もあって、それでいて純粋で、壊れそうな脆さをもっていて、多面的な人格が妙にリアリティをもっていて、それが良かったのかもしれません。とにかく、ヒーローの人格が読者を惹きつける作品だと思いました。これは、ヒーローを愛でる作品です。作者さまの意図もそれがハッキリと現れているし、表紙からもそれが現れているような気がします。
酷いヒーローだけど、許せちゃうという不思議。

Viciousの家族に関する犯罪行為についてはちょっと驚きましたが、これはロマンス小説であってサスペンス小説ではないので、(ロマンス読者としては自動的に薄目で読むため)気になりませんでした。(この部分が気になってしまう方も多少いるかもしれない、という点で、邦訳されていない可能性もありそう…。)

ちなみに、ヒーローの行為はなかなか酷いけれど、それでも、ダーク系ロマンスではありません。そこまでの深みはないというか、恐ろしさや切なさは暗さはなく、典型的な明るいロマンス小説として安心して読めました。この読みやすさも、この作品の魅力のひとつだと思いました。

なお、作品全体を通して、日本の桜がモチーフになっているところも、日本人読者として、嬉しかったです。作者さまは日本がお好きのようで。
表紙のピンク色のお花は桜なんです。素敵。。。

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