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これは2019年度マイ・ベスト・ロマンスかもしれない!!
(まだ10月だけどあと二ヶ月でこれを超えるロマンスに出会えるとは思えない)

L.J.Shenさんには『Vicious』で驚かされて、もうこれ以上のBadAss Alpha ヒーローは書けないのでは?と思ったのだけど、『Bane』でさらに驚かされて、もうこれ以上吸引力のあるロマンスは書けないと思われたのに、この『Pretty Reckless』では腰が抜けそうなほどに驚かされました。こんなに濃密で熱くて生々しくて痛々しくて清々しい青春小説は初めて読みました。青春小説だけどロマンス小説です。すごい。

まずこのブログは英語力がない自分用メモなので、作品の内容ではなく、LJさんの文章についての感想から。
いくら読んでもLJさんの文章は難解で読みづらいので、その理由を分析してみました。
いまの自分の結論としては、まず、固有名詞(映画や音楽のタイトルやファッションブランド名や地名などイマドキの若者が好きな名詞)が多いこと。それから、スラングが多いこと。それから、ロマンス小説ではなく文学作品に使われがちな形容詞や副詞を多用していること。それから、文法が、日本の学校教育で習うものとは違うこと。
なので、20数年ぶりに文法書というものを開いてみたのだけど、LJさんの文体はその文法書で提示されている文法の一般的定型にはあてはまらない文体が多く使われているイコールLJさんは文法を無視しているという結論に至りました。とすると、こちら(読者)としても、文法は無視して、感覚で読めばいいのだと割り切ることができたので、それ以降は格段に読みやすくなりました。

読書期間:2019/9/23~2019/10/3
所要時間:12.5時間
ページ数:363


作品の内容についての感想は、備忘のために詳しめに書いておきます。
(※ネタバレになるかもしれません)
Daria(14歳)はSinners of Saintシリーズ0.5作目『Defy』のMelody(バレリーナの夢を諦めて→高校教師→バレエ学校創設)とJaime(金持ちボンボン高校男子→金持ち)の間に産まれた娘です。
裕福な家庭で育ったお嬢様なのだけど、バレエの才能がなくて卑屈になっていました。母が金銭的に支援しているVia(貧困層の女の子)の才能を激しく妬み、嫌い、有名バレエ学校からViaに届いた封筒(推薦状とか合格通知みたいなもの?)を盗みました。Viaさえいなければ私が一番ちやほやされるはずなのに!Viaなんていなければいいのに!この封筒さえなければ…と思いながらスタバで列に並んでいたときに、美少年Penn(14歳)と出会います。Pennは一瞬でDariaと恋に落ちました。PennはDariaを喜ばせたくて、彼女が憂鬱の原因だと言う封筒を破り捨ててゴミ箱に入れてあげます。これが二人の出会いでした。

バレエ学校から書類が届いていたことはDaria以外誰も知らなかったため、Viaは不合格だったことになり、Viaはバレエを諦めて家を出てしまいました。それはPennの夢を諦めることにもなってしまいました。なぜなら、ViaはPennの妹で、PennはViaのバレエの夢を叶えるために働いていたからでした。Dariaが封筒を盗んだせいでViaの夢は壊れ、Pennの夢も壊れて貧困生活にまみれることになり、ふたりは憎しみ合うことになりました。。。という始まりです。

4年後。
Penn(18歳)は貧困層の高校で、フットボール部の有名選手として名を馳せていました。
Daria(18歳)は富裕層の高校でチアリーダーとして、校内一の人気者として名を馳せていました。
Dariaは、偶然行った地下ファイトクラブで、一番強いと言われているVaughn(Viciousの息子!16歳)と激しい格闘をして叩きのめされているPennを見かけます。その日の朝、Pennの母親が亡くなり、母親の彼氏から家を追い出され(父親は元々行方不明)、荒れていたのでした。
住処がなくなったPennのフットボール能力の将来性(有名大学からのオファーが沢山ある)を買ったMelodyとJaimeは、大学入学までの半年間、Pennに金銭援助と養育のために家に迎え入れることにしました。
PennとDariaは同じ家に住むことになってしまったのでした…!!

Dariaはあいかわらず卑屈で我が儘で鼻持ちならない金持ち令嬢で、母親にも反発し、Pennに対しては、「あんたは兄でも養子でもない、ただの野良犬よ。これはチャリティーに過ぎないんだから、いい気にならないでよね」というようなことを言い、辛く当たります(けれど実は内心はとても怯えていて、繊細で優しい子…)。
ふたりはViaの件で仲違いしていることに加え、フットボールの強豪ライバル校の選手とチアリーダーという立場で、しかもPennはJaime(Dariaの父親)から「娘に手を出したら援助を打ち切り路上に放り出すからな」と言われていました。それなのに、惹かれ合ってしまうふたりの若さゆえの恋心と熱気がすごいです。

PennはDariaの家で生活するにつれて、裕福な家族関係の歪みに気づき、心が満たされずに荒んでいるDariaの本心を見抜いて、さりげなく彼女を癒やそうとします。(観覧車のシーンは甘くてきゅんきゅんしました。)
一方、DariaはViaの件の罪悪感が大きすぎて反抗的になってしまい、周囲の人々と素直に向き合うことができません。PennだけがDariaの心の隙間に寄り添ってくれて、次第にふたりは本気で惹かれ合っていきます。富裕層特有の家族間の愛情の歪みと、思春期特有の親子間に起きる反発心と飢餓感とすれ違い。その様子が素晴らしく色鮮やかに、初々しく、生々しく描かれています。(初めて体を重ねるシーンにはときめきました。)
ストーリーはテンポ良く二転三転しながら進んでいきます。
そんなある日、行方がわからなくなっていたViaが4年ぶりに戻ってきて、様相は一変することになります。ViaはDariaの両親の庇護を受けることになり、Dariaが大切にしているものを次々と奪い取っていきます。Dariaの高校に編入し、Dariaの友人関係の深淵をも炙り出していきます。

L.J.Shen作品のもっとも素晴らしい点は、ヒーローの人間像の描かれ方だと思っています。よくあるロマンスヒーローとは違って、好きな女性を前にすると傷つきやすく弱い男になり、幼稚な部分が全面に出てしまって優しく接することができずに傷つけてしまうという、リアリティのある男性像を説明文や心理描写よりも行動の積み重ねで描いていくその手法がとてもお上手。とくにこの作品のPennはとんでもなく魅力的です。Pennは、次作『Broken Knight』に「Penn basically looked like Leonardo DiCaprio circa 1996」という記述があるように、『ロミオとジュリエット』の頃のレオ様のような美少年なのです。ピュアで傷つきやすくて壊れやすい魅力を備えた美少年。
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 そして、LJ作品のヒーローらしいワルなのだけど、Dariaに一途なので、前半を読んでいたときには、LJ作品群の中では比較的Badass (ろくでなし)ではないような気がしていましたが、じつは○○がいるようで、しかも○○もいるかもしれないことが発覚します(ここは大きなネタバレになるので割愛)。
一方、Dariaには、Viaの件を14歳のときに相談した時からある種の性的関係を強い続けてきた男性教師の存在がありました(こちらもネタバレになるので割愛)。

一般的な青春小説よりも100倍濃密で濃厚で複雑な糸が絡み合っているストーリーがグングン加速していきます。思春期特有のエネルギー過多による空回りと、恋心の繊細さと憂鬱さと切なさと儚さがぎゅっと詰め込まれていて、家族関係の歪みや学校生活の友情の難しさが深く描かれていて、それでいて、HOTなロマンス小説の色合いもあって、素晴らしい作品に仕上がっています。
これは、ただのロマンス小説として売るのはもったいないくらいの出来映えだと思いました。
純文学のカテゴリに入れてもいいと思います。
私はもともと、学園モノや青春小説には興味がないのですが、この作品を読んでいる間、少なくとも数回泣きました。なので、青春小説がお好きな方にとっては号泣モノなのではないでしょうか。
ロマンスファンとしては、20歳の成人になったふたりのエピローグに大満足でしたし、清々しいラストの文章には鳥肌が立ちました。(その文章をここに転記したいのだけど、ストーリーありきの感動だと思うので、割愛します。)

この作品、邦訳される可能性はあるのかな。
勝手に考察してみましたが、ヒーローとヒロインが14歳から20歳までの時期を題材としたストーリーなので、ロマンスレーベルから出版される可能性は低い気がしています。新たに恋愛小説のレーベルが立ち上がればいいのだけど、この出版不況下では難しいでしょうし。
そういう意味で、期待可能性は低い。だからこそ、洋書で読む価値がありました。

読者の視野を広げたり価値観を変えられる力を持つ作品って、とても貴重なのだけど、それらが邦訳出版されにくいのは、そういう力を持つ作品は往々にしてロマンス小説の枠からはみ出ているため、ロマンスファンの保守層には受け入れられない描写(「地雷」と言われたりします)があるからかもしれません。けれど、それで翻訳を止めてしまうのはとてももったいないことだなと思います。
たしかにロマンス小説って、気楽に読める甘いデザートみたいな定型ロマンスを期待することもあるけれど、拒否反応をおぼえたり読むことが苦しくなるような辛いシーンをくぐり抜けることでこそ得られる極甘な感動もあって。苦労して山に登るからこそ見える美しい景色があるもの。なので、ロマンス小説の定型から外れた新しい形の海外ロマンスをどんどん輸入していただけたら嬉しいな~♡ 


ちなみに、このPretty Reckless』はタンドアローン作品だとLJさんは仰っていますが、舞台はSinners of Saintシリーズと同じくカリフォルニアで最もリッチな街「Todos Santos」で、登場人物たちは二世代目にあたりますので、Sinners of Saintシリーズの面々が親になってぞろぞろと登場します。ワル四人組「Four HotHoles」は親になっても暗躍していました(笑)
そういう意味で、『Vicious』からのシリーズを読んだ後にこの作品を読んだほうが数倍楽しめると思います♡


このところLJ作品ばかり読んでいるので、(じつは他の作家さんの作品にもいろいろ手を出しているのですが3分で飽きてしまってLJ作品に吸い込まれるように戻ってしまうという感じなのですが)
この『Pretty Reckless』があまりにも濃くてエネルギッシュな主人公たちに体力を削がれたので、次は恣意的に違う作家さんの本でテンションをしずめようかな…と思います…。